脳の腐敗(brain rot)
英英辞典や英語教材を作っているイメージが強いオックスフォード大学出版局が選んだ2024年の流行語大賞がこの言葉。タイムリーではありませんが、ご容赦を。
以下はオックスフォードの選考コメント ‘Brain rot’ named Oxford Word of the Year 2024 を引用し、訳はほぼGoogleさんにお願いし、一部修正しています。
‘Brain rot’ is defined as “the supposed deterioration of a person’s mental or intellectual state, especially viewed as the result of overconsumption of material (now particularly online content) considered to be trivial or unchallenging. Also: something characterized as likely to lead to such deterioration
訳:「脳の腐敗」とは定義されています、特に取るに足らないまたは挑戦的でないマテリアル(今では特にオンラインコンテンツ)の過剰消費の結果として見られる人間の精神的または知的状態の劣化と考えられるもの。または、そのような劣化を引き起こすようなものとして特徴づけられるもの。
つまり、「脳の腐敗」とは、(特に今ではオンラインコンテンツのように)どうでもいいようなコンテンツを大量に見ることで精神や知性が劣化した脳のこと。またはその脳の劣化を招いたものだとされている。
この ‘brain rot’ という言葉が初めて使われたのは、1854年にヘンリー・D・ソローが出版した『ウォールデン 森の生活』の中だとされる。ソローは結論の中の一部で、次のように批判している。単純なものを支持して、複雑なアイデアやさまざまな方法で解釈できるアイデアの価値を低くみる社会の傾向が、精神的および知的な努力の全般的な低下を示していると。簡単に言うと「面倒なことを考えなくても、楽しければいいんじゃない」ということか。そういう風潮を苦々しく思う人が一定数いるという構図は変わっていないのだろう。
ただ、今回の ’brain rot’ は、最初ゼット世代、アルファ世代たちのコミュニティ特にTik Tok で注目を集めていた。それが主流ジャーナリズムによって広範に使われるようになったことで流行語大賞に選ばれたと選考コメントに書いてある。今の子たちは、自分たちの状況をユーモラスまたは自虐的に表現するためこの言葉を使っている。オックスフォード出版局の代表は、このことを興味深いと言っている。自分もそう思う。
脳の進化ついての私見(妄想)
ソローは、教養人たる自分がそうでない人たちを嘆いているが、今の子たちは無自覚ではないということか。「どうせ自分たちはとうでもいいようなコンテンツを見まくって頭が腐りつつありますが、それが何か?」と問いかけているのだろか。
取るに足らないコンテンツかもしれないが、彼らが処理している情報の総量はすごいと思う。情報処理のスピードは自分たちとは違う次元かもしれない。
人類は生命サイクルが長く遺伝子が進化(変化)するには時間がかかるので、急激な環境の変化にうまく対応できるのかと心配だった。での、それは違うかもと思えてきた。身体は変化しなくても、人間は道具を使って周辺環境を変えることで生き延びてきた。それは脳を進化させてきたということではないか。脳の働きは神経の伝達なので、今と昔の人間の比較は難しいかもしれないが、今の子たちと自分が子供だった頃を比べても格段の差があるのは分かる。チコちゃんに叱られるほど、ぼーっと生きているのが普通だった。アナウンサーが一定時間で読むニュース原稿の文字数がとても増えたと聞いたことがある。情報処理スピードが上がり、昔ほどゆっくり喋っていたのでは受け手がいらっとするのだろう。今は、倍速でたくさんの番組を見るのも一般的らしいし。良し悪しは別として、今の時代に適合した情報処理方法かもしれない。今や、AIの方がさっさと正しい答えを出してくれる。AIが翻訳をしてくれなかったらこのブログも投稿されなかった。
脳を使うと莫大な糖分を消費するので、脳はいちいち深く考えずショートカットするように発達してきたらしい。言葉はその典型だろう。例えば、「動物」と聞いたら、犬や猫などのペット、豚や牛などの家畜、または動物園にいる諸々の生き物などをなど個々の生き物を頭に思い浮かべる。人によって頭に浮かぶものは違っても、漠然とカテゴライズされたイメージがある。言葉なしでこれを伝えるのはとても難しい。
AIの方が早く正しい答えを出してくれるのに自分の頭で無駄に難しいをことを考えるのは、一部の酔狂な人だけになるかもしれない。そうなると騙されたり間違った方向に誘導される人が増えるなど、確かにリスクは増えるだろう。一方で、好奇心に任せて新たな技術を開発し環境破壊を加速させてきたその速度を緩められるかもしれない。少しぐらい脳が退化するくらいが丁度いいという気もする。先進国で少子化が止まらないのも、人間という種の異常増殖にストップをかける何かの摂理が働いているのかもしれない。不要な器官は退化した方が合理的である場合が多い。
ちなみに、イギリスの流行語大賞の起源は15世紀末にさかのぼるそう。ユーキャンの新語・流行語大賞は1984年に始まったそうなので昨年は40周年。日本ても「現代用語の基礎知識」を発行している自由国民社が選考に加わっている。三浦しをん作「舟を編む」に辞書編纂をする人のリアルが書かれているが、辞書と流行語は親和性があるのだろう。流行語が辞書に載るかどうかは、使われ続けるかにかかっているらしい。brain rot は将来掲載されるかもしれないが、「ふてほど」はないと自分は思う。


