かないくん

先日、谷川俊太郎が亡くなった。近ごろまで執筆や対談などの活動をしていたのは見聞きしていた。少しずつ天寿に近づいている感じはあったので、いよいよその時が来たのだな思った。

谷川俊太郎の書いたものは、出版されているものだけでも膨大な量だろう。その中から、そこまでも熱心な読者ではない私のセレクトは、「かないくん」という絵本。「かないくん」は実際に谷川俊太郎の同級生で、小学校の時に亡くなった人物だそう。ほほ日の糸井重里が企画して世にでた本で、漫画家の松本大洋が絵を描いている。

文は一晩で書かれ、絵は約2年かかったという逸話のある絵本。どちらかというと、松本大洋の絵を目当てに購入したのだが、谷川俊太郎の訃報を機に読み直したら、話がすごかった。

その絵本の始まり

きょう、

となりのかないくんがいない。

きょうもかないくん、

けっせき。

もういっしゅうかんも

やすんでいる。

びょうきかな。

…こんなふうに、前半は全てひらがなで書かれていく。ある小学生の視線で、となりの席だった同級生の死とその後のクラスや学校の様子が、淡々と描写される。彼の感情が、悲しいだの寂しいだなという言葉で表されることはない。おそらく少しずつ、みんなの記憶から消えていったのだと感じさせる描写で前半は終わる。

場面は変わって

「ここまで出来てるんだが、ここで止まったきりだ」

絵本のスケッチを見せながらおじいちゃんが言う。

おじいちゃんは絵本作家だ。

「金井君てほんとにいたの?」と私が訊く。

「ほんとにいて、

ほんとに死んだんだ、四年生のとき。

六十年以上たって、突然思い出した。

それでこの絵本を

描きだしたんだがね」

かないくんの同級生だった少年はおじいちゃんとなり、自身が死に直面している。後半は、その孫の視点から書かれ、ルビがふられた漢字が使われた文になる。

おじいちゃんは孫に、絵本をどう終わらせたらいいか分からないと言う。死そのものはありふれたことだ。一方でひとつひとつの死は特別なものだから、終わらせ方は難しかったのかもしれない。

でも谷川俊太郎は、実に見事にこの絵本を終わらせたと思う。重々しくもなく、軽々しくもなく「死」を昇華させた。孫という第三者の視点から見ることで、金井君とおじいちゃんの死を俯瞰できている。おじいちゃんの死によって、この絵本とおじいちゃんの絵本がひとつになったかのようだ。

以前読んだときは谷川俊太郎の話の凄さがピンと来ていなかった。松本大洋の絵の力が強すぎたのだ。谷川俊太郎は、松本大洋の絵にまったく注文は出さなかったというが、二人の対談で谷川が、文と絵が付かず離れずのちょうどよい按配だと話していた。文だけ味わう、絵だけ味わう、一緒に味わう。順番は好みだが、三度楽しめる。

ということで、この本はおそらくメジャーではありませんが名品です。おすすめします。装丁や印刷も凝りに凝ったそうです。糸井重里が立ち上げた株式会社ほぼ日の運営するサイトほぼ日に、作成を巡る逸話のあれこれが載っています。これがまた、面白いです。

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